偽書Banquet解題 ~譲治殺害~まとめ
- vicisono
- 2012年10月5日
- 読了時間: 11分
このページにはビジュアルノヴェル『うみねこのなく頃に』『うみねこのなく頃に散』のネタバレが記載されています
2012年10月5日 (初稿)
2013年09月23日 (改稿)
2019年09月18日 (サイト移転)
譲治殺害
十三人の生贄とイレギュラーな死者で書いた通りに、ジョージ殺害は魔女のきまぐれではなくイケニエの穴埋めであり、魔女復活の儀式に必要な殺人である。
1時30分に捜索班が館に向かい、ゲストハウスはクラウス一家だけになる。
夫妻は捜索隊と入れ違いにやってきた真当主から指示を与えられ、ここでジェシカは両親からある程度の内情を明かされたと思われる。
捜索隊が帰還し、篭城再開。ある程度の時間が過ぎた後、2階のいとこ部屋で手帳に挟んだシャノンとの記念写真を眺めていたジョージが「魔法による死者の復活」を口にした後、コーヒーをもらいに部屋を出る。
ジョージの一人称による内面描写は幻想としても、うまいタイミングで部屋の外に出たのはどういう事だろう。
バリケードを築くなどの作業中にジェシカか南條から「シャノンの事で話があるからバトラには気付かれぬように、後で南條の部屋に来い」と指示されたか。
あるいは「シャノンからのメッセージがあるから後でこっそり手帳を見ろ」と指示されて、ジョージが不在の間に挟んでおいたシャノンの筆跡のメモに「バトラに気付かれぬように口実を作って南條の部屋に行け」と書かれていたとか?
4時~5時の間に、ジョージはマグカップを持って南條の部屋に行き、「シャノンや他の使用人たちは生存しており本館客間で待っている。自分達は金蔵の指示で動いている。暴走したエヴァの扱いについて息子のジョージと相談したい」と告げられる。
南條の部屋にカップを残して廊下の窓から降り、屋敷に向かい「金蔵もしくはマリアの穴埋め」として殺される。
金蔵に理解を示す一人称の内面描写は「金蔵の穴埋め」の暗示か、あるいは番狂わせで一人しか我が手で殺せなかった薔薇庭園の殺人の代わりに、シャノンとジョージに「寄り添う二人を引き裂け」を再演させたとも解釈できる。
幻想描写ではクラウス夫妻が殺害された後に、ジョージは薔薇園から発射されたシエスタ隊の金糸で縫い殺されている。
薔薇園でクラウス夫妻が殺害されたのは6時過ぎ。夫妻の失踪が皆に知れる一時間以上前にジョージはいとこ部屋を出ている。5時前か。
ジョージは6時前には館に入っているはず。客間でシャノンの遺体のない事を確認して15分以上も一人でそこでぼんやりしていたのか?
あるいは入室してすぐに待ち受けていた真当主に至近距離から撃たれて死亡。犯人はそのまま薔薇園に向かい、そこで夫妻を殺害…と、幻想描写とは逆の手順なのか。
蔵臼夫妻殺害
幻想描写でエヴァベアトがバラ園上空を飛ぶジョージの気配を察知するのは5時45分頃。
午後6時に近い頃、エヴァがロビーを短時間離れてクラウス夫妻だけになる。
幻想描写ではその隙に夫妻はほぼ同時に絞殺されるのだが…
ゲストハウスで殺害され台車で運ばれたというのも考えられるが、昼の間に指示されたとおりに自ら薔薇庭園に足を運んで殺害された可能性の方が高いだろう。
後でジェシカが両親を探しに真っ直ぐに薔薇園に向かっているので、夫妻は昼の間に「隙を見て誰にも気付かれずに薔薇園に来い」と指示されており、ジェシカに対しては「自分達の姿が見えなくなったら、薔薇園を探せ。誰にも余計なことは言うな」と伝えておいた。
クラウスは銃を持って出たようだし、事ここに及んでは、地下通路を使えないにせよ「真当主を撃って親子三人で森をつっきり、出来るだけ館から離れる」というのがクラウス一家にとっては生存確率の高い選択肢だと思うのだが(破産とスキャンダルは免れないが)。
一人でも死人が出てしまった以上、「爆発事故」で揉み消しできなければスキャンダルで身の破滅。ましてここまでの大量殺人に関わっていた事が明るみに出れば、一家三人ともに社会生命は絶たれたも同然。
クラウスに対する恫喝としては「爆破するよ」よりも「爆破してあげないよ」の方が有効だろう。「ここで私を撃ったら、自分の管理する島で大量殺人事件が起こったスキャンダルを負う上、金塊はエヴァのものになるけど、いいの?」か。
真当主の恫喝の材料は、「スキャンダルの揉み消し」「爆弾」「ジェシカの命」「エヴァへの家督の委譲」か。
ジェシカが最後まで真犯人の手による殺害を免れたのは、「夫妻が命令に従い続ける限り、ジェシカを自分の手では殺さない」という密約があったのかもしれない。
絞殺の手口については、狭い東屋の構造を利用してトラップを仕掛けたとも考えるが、EP7でウィルが「明白なる犯人は」と言っているあたり、犯人は堂々と夫妻の前に姿をさらした上で二人を殺害しているようなニュアンスである。
一番エグい推測は、「ジェシカの助命と引き換えに自らロープに首を入れさせた」か。
8桁の数字
6時過ぎに生き残りメンバーがゲストハウスを出る。
エヴァが席を外している間にクラウス夫妻が失踪したのは「もうじき6時」になる頃なので、失踪発覚・家内確認・捜索決定までは15分くらいか。
ジェシカ主導でローザ殺害現場→東屋と探索し、夫妻の遺体発見。検視などを済ませた後、館へ入ったのは6時10分前くらいか?
タイムテーブルを考えると、やはりジョージ殺害はクラウス夫妻より前だろう。
腿と膝に杭を打たれた死体が出た段階で第八の晩まで完了し魔女が蘇る条件が整ったように見えるが、実はもう2人イケニエが必要。
ジョージの遺体のある客間の扉にキャッシュカードの番号。
南條に対する共犯報酬の受け渡しか、とも考えられるが、
数字が記されているのはジョージの遺体のある部屋の扉
数字をメモするのは南條ではなくエヴァ
ジョージのTIPSには「彼の魂と引き換えに、魔女は8桁の数字を与える」とある
メモ用紙として使用するのはEP1、5において真犯人の指示により書斎封印に使用したレシート(=今回のエヴァは共犯者ではなく純粋被害者という暗示)
南條の遺族には既に暗証番号を発送済
以上から、生還の可能性を残しているエヴァに向けた「ジョージとヒデヨシ殺害に対する遺族見舞金」と解釈した方がいい。
碑文解読宣言
客間でシャノンの遺体を見てもジェシカはこれといった反応を示さないので、両親から真犯人について詳しい事は聞かされていなかったのだろう。
両親の素振りから真犯人はエヴァ以外の人間と考えていたが、今となってはエヴァ以外の該当者がいないので、半狂乱で食って掛かったと。
エヴァの銃が暴発してジェシカの視力が損なわれるのは、純然たるアクシデント。
ここからの生き残り分断、南條殺害は状況に応じたアドリブだろうが、ゲームの目的上タイムリミットまで生存させる必要のあるバトラ、指輪の委譲を済ませてゲーム満了宣言はしていないものの碑文を解いたエヴァ、クラウス夫妻に助命の約束をしているらしきジェシカを除けば、ターゲットは南條しか残らない。
使用人部屋の外で南條を射殺。13人を自らの手で屠って、魔女復活の儀式が完了。
真犯人はそのまま部屋に入って「魔女ベアトリーチェ」と名乗りジェシカに銃をつきつけて客間まで連行。声を立てないように脅しつけておいて、カーテンの陰にジェシカを隠れさせ、自分は元の位置に。
一旦屋敷奥に走っていったエヴァとバトラが使用人室前で南條の死体を発見。客間に戻る。
客間のカーテンの陰にはジェシカ、床には真当主が伏せているはずだが…その室内で口論の末、エヴァがバトラを射殺する。
駒バトラに「お前が犯人だ」となじられたエヴァがそれを肯定するように「気付くのが遅いわよぅ」と言っているが、これは散々悪夢に悩まされた挙句にそんな気になってしまったのだろうか?
メタバトラは直前まで南條殺害犯人に関して苦悩していたので、ついそちらに引っ張られてしまうが、駒バトラが駒エヴァを指して「犯人」と発言したのはどの犯罪についてだろう。
客間に入った時点で2人がパニックを起こしていたのは、南條が殺害されジェシカの所在が不明である件だが。
南條殺害に関しては両者がアリバイを保証しあう関係であり、駒バトラが「お前が犯人だ」というセリフを言うとは思えない(南條殺しの犯人と疑うとしたらジェシカだろう)。
駒バトラはエヴァの黄金発見等も知らず、キリエの所持していた吸殻に関する情報もない状態なのでローザ母娘殺害犯と疑う理由もない。
興奮したまま南條殺害犯について話し合い、南條が何度か一連の殺人を魔女の仕業と言及していた事に話題が及び、そこでエヴァが「碑文の謎は私が解いて黄金も発見したのに殺人は続いた」と口を滑らせたとか。それに対し「(ローザ母娘とホールの3名についてはアリバイもないし、生存者であり黄金独り占めという動機も存在するので、消去法により)お前が犯人だ」と叫んだのか?
これにより、当人はそうと気付かぬうちに、 その時点での島の滞在者全員の前で碑文解読黄金発見宣言した事になる。
エヴァの黄金発見宣言によるゲーム終了があと5分早ければ、南條は生還できていただろう。
この直後にバトラは射殺され、むっくり起き上がった真当主からエヴァは当主の指輪を譲り受け、爆弾の存在と解除法、逃走経路を教えられ、クワドリアンに続く通路への鍵とキャッシュカードを受け取る。
その後に夫と息子の仇としてエヴァが「ベアトリーチェ」を撃ったのかどうかは不明(バトラに発砲後、エヴァにはリロードする技量がないので撃っていない可能性が高いが)。
ジェシカの生存と爆弾の解除法について教えられたであろうエヴァは、ジェシカを見捨てて島を吹っ飛ばす選択をした。
朱志香と嘉音
幻想シーンでは大層美しくロマンティックに描かれている「ジェシカとカノンの愛」だが、本エピソード内でジェシカのカノンに対する恋心の描写は
海岸にて
バトラと2人きりの場で「告白はしたが空振り」「そういう対象とも思われていなかった」
バトラから相手はカノンではないかとカマをかけられて、更に「半径1km以内にいるのか」とも問われて赤くなる。
バトラ一人称描写の場面で、「バトラと2人きりの場で」カノンの名は明言せずにそれらしいアピールをしている(註)。
他には第二の晩の殺人後、三人称描写の地の文でジェシカとジョージが互いの思い人を失った悲しみを紛らわせるために何度も話し合ったとある。ここで二人の思い人はシャノンとカノンであると地の文で明記。そして涙を流す二人に声もかけられずにいるバトラを地の文が描写しているが…偽書においては地の文には幻想が入り込む。
東屋で両親の遺体が発見された後、ジェシカは「父さんと母さんを殺した犯人をこの手で絶対殺してやる」と憤るが、カノンには言及せず。屋敷でジョージの遺体発見後、ジェシカがエヴァに食って掛かる際も「両親の仇」のみ。
その後使用人室で手当てを受ける際に地の文でカノンの死を悼む内面描写が大量に入るが、無論これは幻想である。
最初の海岸の場面をのぞけば、見事なまでに実体というものがない。
海岸の場面も幻想と切り捨ててしまいたくなるが、わざわざ「バトラと2人きりの場」を選んでアピールしているのがひっかかる。
この海岸でバトラは「薔薇園で挨拶した際、ジェシカが口下手なカノンをやたらにかばっていた」事を回想しており、これをEP1の描写の引用と受け取りたくなるが、この場面の不自然さを踏まえて読むと「カノンと名乗り薔薇園で挨拶しただけの人物は声を出して話せばボロが出てしまうので寡黙にふるまい、事情を承知しているジェシカがフォローして取り繕った」 という解釈もできる。
クラウス夫妻は実際の大量殺人が起こるのを承知の上で、ジェシカに「カノン存在幻想」に協力させたのでは。
本エピソードのラスト、幻想描写ではジェシカを持ち上げるだけ持ち上げているが、ミステリ解釈では
「視力を失った状態で謎の大量殺人鬼に銃を突きつけられて脅され、成すすべもなくカーテンの陰に押し込まれる。声も上げられず震えていたら、口論の末に叔母が従兄を撃ち殺してしまった。すると犠牲者の一人と思っていた友人が殺人鬼の正体をあらわして、しかもあと5時間程で屋敷周辺が爆弾で吹っ飛ぶと言い出した。頼みの叔母は自分を見捨てて逃走」
である。
エヴァが犯人を射殺したなら従兄二人の死体+殺人鬼の死体の転がる客間で独りきり。
犯人が生存していたとしてもシャノンとカノンの魂は既に「殺されて」いるので「中の人」は魔女であり、魔女が愛しているのはバトラなので、正気を失いバトラの亡骸を抱えて呆けている大量殺人犯と二人きり。
そんな状況で刻々と迫る死のカウントダウンの間、恐怖と絶望をたっぷりと味わわされた上で死んでいるのである。
なんという地獄絵図。
本エピソード中、一番陰惨な殺され方をしているのはジェシカなのである。
これなら儀式の最中に射殺された方が余程マシだ。表面的な描写が過剰に情緒的で美しい分、裏の意味に気付いた時の後味の悪さが尋常でない。そしてジェシカの扱いの極端な二面性は次のEP4でも繰り返される。
事件前にヤス単独で作成された「聖典」では「使用人たちが血の通った人間扱いされず、ジェシカとジョージの扱いには手心が加えられている」。
一方、実際の事件を体験した後にバトラ原案で作成された「偽書」では「使用人たちをフォローし、特に熊沢を最大限持ち上げる一方、ジェシカに対しては悪意のこもった扱いをしている」のである。 実際の六軒島事件の最中でのジェシカの言動がシナリオに影響しているのだろうか…
(註)「実はジェシカは同性愛者で、『シャノン』に告白したが『そういう対象とは見られておらず、空振り』した」と解釈すれば「半径1km以内」で赤面したのも説明がつくが、どうだろう。作中現実で「シャノンとカノンを殺害された恨み」をあらわしていないので、可能性としては薄そうだが。
まとめ
EP3は「エヴァによる黄金発見」「ローザによるマリア殺害」「第5、6の晩のイケニエ入れ替え」「エヴァによるバトラ殺害」と、真犯人の予想外のアクシデントが次々に起こるシナリオとして作成されている。
「犯人も全てをコントロールできていた訳ではない」というアピールだろうか。
そして次のEP4と合わせて作中で暗示されているのは「エヴァとクラウスの反目と、その間で日和見するルドルフ夫妻&ローザ」「実は両親べったりのジェシカ」「使用人たちの善意」である。これらは『現実の六軒島事件での彼等の行動』を反映しているのだろうか……。
Comments