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  • 執筆者の写真vicisono

贋作End解題 Part1~ベアトの天秤

更新日:2019年9月19日


このページにはビジュアルノヴェル『うみねこのなく頃に』『うみねこのなく頃に散』のネタバレが記載されています


2013年09月02日 (初稿)

2019年09月18日 (サイト移転)


 

愛なき世界


今回は細部の検証と『贋作』要素の検討を行う。


事件の基本的な仕掛けはいわずもがなとして、計画の方針決定と親族の丸め込みが行われたのはどの時点だろうか。

漫然と物語を追っていると、バトラによる金塊発見に応じて立案した計画か、と思ってしまうのだが…



被害者であるクラウス一家の立会いを中心に金塊発見後の親族会議のタイムテーブルを見てみると


 

深夜の親族会議


23時?分頃~:全員で金蔵の書斎前に押しかけて追い返されたりの後、食堂で親族会議。

23時50分頃:一旦休憩、源次を呼んで茶を用意させる。クラウス夫妻退出。

シャノンとカノンが茶の配膳。

24時直前:2階廊下でクラウスと相談中のナツヒに源次が「19年前の男」からの外線取次ぎ。続いて24時の鐘の音。

24時~:ナツヒは自室の電話で19年前の男と会話。

24時~1時:「食堂の全員は一歩も部屋を出ていない(赤字)」

1時:「最初に食堂を出たのはエヴァとローザ(赤字)」

「ローザを見送った後、エヴァが源次の部屋にガムテ封印(室内には立ち寄らず)。朝の事件発覚まで保たれる(赤字)」

「エヴァが戻るまで、ほかに食堂を出た者はいない(赤字)」

3時:バトラがゲストハウスに戻る。


 

クラウス夫妻が席を外したのが23時50分頃、0時7分前後に真ハンニンはナツヒの自室に電話をかけて会話している。

その真ハンニンは23時50分過ぎ~午前1時まで食堂を出ていない事が赤字で証明されているので、親族一同の立会いの下、食堂から堂々とナツヒに恫喝電話をかけた事になる。


わずか数分間で親族一同を丸め込んで複雑な計画の共犯に引き込むのは流石に無理がある。


それ以前の段階ではどうか。

夕食から金塊発見報告までを「公正なる観測者・ヱリカ」を中心に見てみると…


 

夕食後~深夜の親族会議開始まで

19時~:めずらしく和やかな夕食の後にエヴァとヱリカが相談しガムテ封印考案。

?時:夕食後、クラウス夫妻以外の親族一同と共にヱリカはゲストハウスに行き、1階ロビーで碑文の謎談義。

22時近く:ゲストハウス組散会。バトラとローザはロビーに居残り。

22時?分:書庫に入ろうとするヱリカにバトラが合流。

22時45分過ぎ:暗号を解いて礼拝堂の隠し通路を開く(バトラが金蔵目撃)。黄金発見、親族に報告する為に館に行く。

23時頃:エヴァが書斎前に押しかけ、クラウスが客間から書斎のナツヒに電話(この時エヴァが扉にレシート封印)。

親族達と共に地下貴賓室を確認後、バトラを残してヱリカはゲストハウスに戻る。


 

夕食~深夜の親族会議開始までの間に、探偵・ヱリカの目を逃れて本作戦の最重要人物・バトラと込み入った相談をする時間は誰にもない。ヱリカとバトラが同席していないのは、ゲストハウス組散会後のほんの10分程度しかない。

更にこの段階で既にガムテ封印考案やレシート封印(EP1との関連から見て、エヴァの発案ではなく真ハンニンの指示によるもの)実行、バトラの金蔵目撃等、この後の作戦の下準備がなされている。

抱き込みはこれより更に前に行われている必要がある。



となると、親族抱き込みは夕食以前に済ませておかなければならず、バトラによる金塊発見と当主継承が計画内に組み込まれている以上、「バトラの碑文解読」自体が真ハンニンによって正解を事前に与えられた八百長であり、本EP内の駒バトラは自力で碑文の謎を解いていないという事になる。


ベアトリーチェにとっては「己の存在を賭して投げかけた謎」であるはずの「碑文の暗号」を碑文殺人実行の為の手段に貶めているというのが「本物のベアトリーチェならばやらない事」の筆頭だろう。

ちなみに「碑文の謎が解かれて新たな当主が生まれたのに殺人が行われた」は、別にアンフェアではない。そもそも碑文解読自体が八百長であり、しかも今回は「碑文が解けなければ殺人が続く」という魔女からのメッセージは届いていない。



愛のない犯人、愛のない碑文解読者、愛のない探偵…「愛の欠如」が本EPのテーマらしい。


 

碑文の謎と意味


EP5は親切なラムダによるヒント編であり、「バトラが碑文解読・当主継承した場合、何が起こるのか」を推測する手がかりを提供してくれている。


当主継承


「ジョージを飛び越したバトラの当主継承」にエヴァが異を唱えるどころか、当主の指輪をはめろと急かしたのは、「碑文解読は嘘であり、クラウス一家恫喝の為の芝居に過ぎないから」だろう。

このシナリオ内でエヴァが真当主の事をどう思っていたかまではわからないが、クラウス一家が破滅して財産が残る弟妹で山分けされるならそれで良し、それ以後は優秀なジョージが右代宮の事業を再建し、自分達一家が実質的な本家になればいい…というところか。


よって、このEP内のエヴァ一家のバトラ当主継承に対するリアクションは「『現実』にバトラが碑文を解いた場合」の参考にはならない。 重要なのはクラウス一家の言動だろう。


  • ジェシカ:あれほど跡取りの重責に反発していたにもかかわらず、碑文がクラウスの立場を揺るがすものというヱリカの主張には激怒。


  • クラウス:黄金発見による新当主誕生に伴い、金蔵の死亡隠蔽と財産横領が露見した場合、妻とは離婚し全ての責任は自分ひとりでとる(刑事告発される以前に自殺?)。


  • ナツヒ:夫以外の人間が当主の座につけば、右代宮家のスキャンダルが明るみに出る。「名誉ある右代宮家の次期当主夫人」をアイデンティティとするナツヒとしては絶対に受け入れる事はできない。クラウスの事業が成功して借金を返済するまで、家督を引き渡すわけにはいかない。


尚、当人も親もその気がない上、長期間籍を抜けていた為に意識されていないが、バトラは金蔵にとって唯一の「男系の男孫」であり、碑文の件がなくとも後継者争いに参加する根拠を持っている。

『現実』において、ルドルフ夫妻とローザがこの理屈を持ち出してバトラの当主継承を主張した場合、長年のコンプレックスを刺激されたエヴァとナツヒが怒り狂うのは目に見えている。



ちなみに今回のジェシカは完全なる被害者であり、前回、前々回のように人格を貶められた上で凄惨な殺され方をしてはいない。

…が、今回は「和やかな夕食の間も、親族達はジェシカに一服もって拉致し、クラウス一家を陥れて身ぐるみ剥いだ上でポイ捨てする計画を胸に秘めていた」という前提で読むと、夕食の席でのやりとりが一気に不快なものに見えてくる。

気心の知れた同士のちょっとしたからかいではなく、彼等は本心から「当主跡取りにふさわしくない不出来な娘」を蔑み嘲笑っている…という風に、場面の意味が変わってしまうのだ。


更にヱリカが碑文解読に本腰を入れた理由が「ジェシカの言動にムカついたから」とされているあたり、やはり偽書の作者のジェシカに対する扱いは格別に酷い。


 

魂の継承


そなたの若かりし日の面影を、思い出してしまったぞ。……腹が立つくらい、戦人に似ておったな。


私の魂も、そして当主の資格も、今や全て戦人が受け継いでおるわ。

当主のテストに合格する事で何が起こるかについて、前回EP4で「金蔵の全てを受け継ぐ」と表現されたのを更に推し進めて、碑文の謎を解く事はすなわち「金蔵の魂を受け継ぐ」事であると定義される。


一般的な文脈ではこのような場合「故人の魂を受け継ぐ=亡き人の思想や生き方を受け継ぐ」であり、『現実』において当主の指輪を持ち帰り右代宮グループの代表になったエヴァが、金蔵のような非情な経済人にならざるを得なかった顛末ともリンクしている。


しかし右代宮金蔵という人物の特異な価値観を考慮した場合、「魂を受け継ぐ」は文字通りの意味に受け取るべきだろう。

つまり、「碑文の謎を解いたバトラは金蔵の魂を納める肉の檻となり、金蔵が蘇る」のだ。

(ただしこれは生前の金蔵本人の妄想ではなく、それに感化されたヤスの妄想なのだが)


また、なんとなく流してしまいがちだが、なぜベアトは若き日の金蔵がバトラに似ていると「腹が立つ」のか。

これは過去の因縁など何も知らぬまま恋した相手であるバトラが、自分に呪われた運命を強いた金蔵と(魔法解釈によれば)同一人物だった事に対する愛憎入り混じった感情」を表しているのではないか。


人間はどのような事象にも因果性を求めてしまう。きっとそうに違いないと思ったら、そう見えてしまう生き物だ。


礼拝堂のレリーフが作動した直後、駒バトラが目撃した『金蔵』は


これにて我が生涯に一切の未練はなし。ベアトリーチェ、そなたの許に行くぞ。我が碑文が選びし奇跡を手土産にな。
我が生涯の最後の最後に、我は真の奇跡を見たり。
ベアトリーチェ、この賭けは私の勝利だ。

…と大はしゃぎである。

エヴァが自力で碑文を解いた際は、ベルンから「奇跡じゃなくて偶然」呼ばわりされたというのに。


最初のセリフで指している「ベアトリーチェ」は駒ベアトでもヤスでもなく、亡きビーチェの事だろう。

最後のセリフで指している「ベアトリーチェ」は、晩年の妄執の対象である「概念としての『黄金の魔女ベアトリーチェ(3代にわたる歴代ベアトリーチェ)』」であろう。


バトラが碑文の謎を解くという「真の奇跡」が起こると、何度も死んでは転生を繰り返し金蔵の手を逃れてきたベアトリーチェが遂に永遠に金蔵のものになり、「金蔵とベアトの賭け」は金蔵の勝利で終わる。


「碑文の魔法」による奇跡で金蔵Ⅱ世とベアトⅢ世が永遠に結ばれ、未練のなくなった初代金蔵は亡き初代ベアトリーチェの許に向かう(=妄執が解消されてきれいに成仏する)訳だ。


 

ベアトの天秤


  • 碑文殺人と碑文の謎解読はベアトにとって同じ価値

  • 碑文殺人と碑文の謎をセットでバトラに提出するのがベアトの目的


ロノウェ曰く「バトラには黄金郷の主になるつもりはない。我らの主となる者はもはや現れない」

ガァプ曰く「ベアトと金蔵のルールでは、バトラが碑文を解き主となることを選ばない場合、幻想の住人達はお役御免になる」




  • 碑文の謎を解かれると、新たな当主誕生で「金蔵の死が確定」し、「魔女は魔力を失い無力なニンゲンに戻る」。

  • ミステリを解かれると、自動的に「金蔵の死が確定」し、「シャノン・カノン・魔女ベアトリーチェがひとりのニンゲンの別の相である事」が看破される。


結果は同じだ。


魔女と魔法を理解するという事は、同時に魔女も魔法も存在しないのを理解する事であり、魔女と魔法の存在を認めて欲しいベアトにとっては二律背反となっている。

黄金郷の帰趨と魔女の存在は、謎を解いたバトラがどのような選択をするかにかかっている。


  • 戦人に愛がなく、黄金郷(ヤスの心)を拒否した場合、幻想世界の住人たちは存在を否定され現世を去る。

  • 戦人に愛がある場合、正体を暴かれて魔女も金蔵も一旦死ぬが、戦人が黄金郷(ヤスの心)を受け入れる事で全ては再び蘇る。


碑文の謎を解いたバトラが金蔵の生まれ変わりとしてベアトリーチェの生まれ変わりのヤスと結ばれたとしても、それはあくまで「金蔵にとっての奇跡」の成就であり、ヤスの本願は別の処にあるのだろう。


『現実』においては、バトラは碑文の謎の方は解いた(解かされた)ものの、殺人ミステリの形で投げかけられた謎に挑む方については状況が許さなかったようだが、最終的にヤスは蘇った愛を手にして魔女(=金蔵の妄執)を永遠の眠りにつかせる事ができたらしい。ヤスの予測を超えた形で「千兆分の一の奇跡」は起きたのか。


その後の2人がミステリ作家になった事、EP8においてベアトリーチェの死亡宣告と黄金郷の終焉宣告がなされた事などを考え合わせると、『現実』の右代宮戦人という人物は、ファンタジーに理解を示しつつも本質的にはあくまで「ミステリの人」のようだが。

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