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  • 執筆者の写真vicisono

南米・チリのmangaスタイルwebコミック"Awaken"(Koti Saavedra作)

※この投稿は2016-5-29に旧サイトの日記ページにあげていた記事を再編集したものです。

丁度今、kickstarterで紙単行本化の資金をファンディング中という事で、チリの漫画家/アニメーターのKoti Saavedra(ネット名Flipfloppery)によるmangaスタイルwebコミック"Awaken"の紹介を。



Inkblazersからhiveworksへ


この作者さんはInkblazersの電撃閉鎖で迷惑を蒙った作家さん2トップのうちの一人。


IBとの契約で漫画家として定収入が得られる事になって仕事をひとつ辞めたら、その直後にサイトが閉鎖というヒッデェ仕打ちを受けましたが、その後ほどなくして同種のwebコミック・ホスティングサービス Hiveworksの審査を通過し、現在はHWのサポートを受けつつ連載を続けています。


(ちなみにInkblazersはオールカマー、広告無し、自社でオンデマンド単行本化でしたが、hiveworksは作品審査制、広告有、単行本化はkickstarterでの資金集めに協力するという低リスクなビジネススタイル。何度か話題に出してるChromatic Press社も最近HWのパートナー企業になりました)


参考外部サイト:"Awaken" by Flipfloppery

参考外部サイト:Koti SaavedraのPatreonページ


 

"Awaken"あらすじと基本設定


アクション主体の少年漫画系作品で主要キャラの性格付けもシンプルなので、基本設定さえ把握すればテキストが英語でも絵を眺めているだけで大体は把握できると思います。

ジャンルは異能バトルもの異世界アクション少年漫画といった処でしょうか。



物語の舞台は異次元の地球と思われる場所。文明の程度は2010年代の先進国とほぼ同等で、若者はスマホをいじりスクーターで学校に通い、バスケットボールのゴールや球も我々の現実と同じデザイン。

我々の住む地球の近未来かもしれませんが、今のところは異世界と解釈しておいたほうが無難。


一見は我々の現実と大差ないように見えますが、この世界では過去に大規模な戦争と疫病(テロリストがまいた細菌兵器との説が流れている)によって人類が大量死し、生き残った者は帝政国家「ノヴァ」を築き、周囲を高い壁で囲まれた都市で生活している。


主人公はノヴァの名門一族の子弟である18歳の少年Piras Dameschi(paɪrəs dæmɛskɪ パイラス・ダメスキ)。数年前に「名誉ある死」を遂げた亡父の跡をついでインペリアル・ガードの一員となって国家に奉仕する事を期待されている。


当人も若者らしい脱線行動や父に対するコンプレックス等をかかえつつも、将来は「帝国騎士」に連なる事を目標としていました……が。

ある日、謎めいた女性Nyl Astra(ニル・アストラ)と出会った事から大きく運命が狂い始めます。


超常の力をふるい突如現れた怪物らしき存在を退ける彼女は、帝国正規軍と対立するグループの一員でした。

彼女と接触したパイラスの身体には異常な兆候が現れ、人類を滅亡寸前まで追いやった脳を破壊する奇病「ブルー・ペスト」に罹患したかと思われましたが、実はニルが操る超常の力と同じFlux操作能力の発現に伴う変化だったのです。


軍はFlux能力の存在をひた隠しにし、ブルー・ペストという虚偽情報を流して隠蔽、国民はブルー・ペストの予防接種を義務付けられているが実際は能力発現を抑制するワクチンらしい。

そしてこの謎の存在を知った者は何らかの形で排除される。パイラスの父の死にも口封じの疑いが…。


 

kickstarterとwebコミック


今回単行本に収録されるのは第3章まで、現在hiveworksでは4章を連載中(全編無料)。


参考外部サイト:"Awaken" by Flipfloppery


webコミックとしては若干展開が遅いのが弱点かな~とは思いますが、多少の難点を凌駕するくらい作画能力が高いのは見ての通り。


IB時代から固定ファンが付いていたし、単行本化もスムーズに行くかと思いましたが、意外と苦戦しているんですよね…。


この人に限らず、人気webコミックの単行本化ファンディングは概ね動きが遅く、終了間際に様子見層の参加とロイヤルファンの追加融資で滑り込み達成するパターンが多い印象。ゲーム系のファンディングの方が集まりやすい感じ。


やっぱり「ウェブでフリーに」読めるものに改めて金銭を出させるのは難しいのかな…。とはいえ、日本ではウェブコミックの商業単行本化やアニメ化が複数成功しているし、英語圏でも例のマミーポルノ小説はバカ売れしたし。実際、どうなんでしょうね?



(追記:ファンディング終了の約50時間前に達成。 417 backers pledged $24,232でプロジェクト終了。)


 

セリフ横書きウェブコミックのコマ割雑感


以下は延々と余談です


↓はAwaken第1章の数ページですが…何か気付きません?


この作品に限らす最近の左→右進行海外ウェブコミックでよく見かける手法なんですが、

※1ページは紙本に倣って黄金長方形を縦に使い、それを3分割し左→右、左→右、左→右、と読ませる

パターンが多いんですよ。


分かりやすく図示すると、こういうZが二つ重なるようなラインで読ませるコマ運び。


日本の「セリフ縦書き、右→左進行」「紙の雑誌、しかも大メジャーはB5版の雑誌で、丁寧に1コマ1コマ読んだりせずパラパラ読み飛ばす読者が多い」を前提としたコマ割りは


※1ページあたり大きなS字をひとつ描くようなラインで動く読者の視線に合わせてコマを割り、各オブジェクトを配置する

が絶対の正解。



現行の日本式メソッドからすると「三段分割式」は洗練されないやり方なんですが、ウェブコミックとして横長のモニターに拡大表示して読み進めるには便利なんですよね。

吹き出し&文字が小さく読みづらいのも、コマ毎にジャンプ&拡大して読む分には不都合はない。


(ちなみにAwakenはInkblazers時代にblanksページを配布しており翻訳者に対してウェルカムな姿勢だったのですが、「吹き出しが小さすぎて自然な日本語のセリフを収めるのは無理!」 …と思って諦めたのでした)


セリフ横書きのウェブコミックとしては、これもひとつの正解なんでしょうが、「コマ割り」という漫画にとって最大の肝が日本式漫画とは別の思想に基づいている以上、如何に絵柄や物語のモチーフが日本manga的であろうと、これはあくまで「海外ウェブコミック」なんだよなぁと。


 

余談の余談。海外mangaのコマ割雑感


以下は、ほんっとに完全な余談。Awakenとは関係ありません。


Inkblazersはスタート時点の名称がMangaMagagine.netだった事でもわかるように、mangaスタイルのコミックを描く若者が多かった。てか、よーするにmanga-kaワナビのたまり場だった。


で、達者なmangaスタイルの絵を描く子も多く、気の利いたストーリーやキャラを作れる子もいた。そして、セリフは母国語の横書きなのにページ進行は右→左で描く子というのも結構いた。

でも、「日本の漫画家が常識としているようなコマ割り(&レイアウト)メソッド」を身に着けてる子は極めて少なかったんですよ。


IBでトップクラスの人気があったある作品、主人公は日本人で絵もmanga系でとても上手な作品だったのですが、私はそれの最初の20ページくらいを左→右進行で逆に読んでたのに気付きませんでした!(実話)

フキダシの配置による視線誘導とかキャラの向きによる意味づけというのを全く配慮していないから、逆でも読めちゃうの。


まー、海外では90年代のアニメ絵をヘッタクソにしたような絵の描き方中心の「How to Draw Manga」本は腐るほど出てるし、コピックの使い方だの萌え系CG彩色の教本だのは流通してるけど、実践的なコマ割りメソッドを教えるような本は出てるのかどうか…海外のコミック系専門学校でも教えられる人材はいないだろうし。



どうしようかな…書いちゃおうかな…ええい、いい機会だから書いちゃえ!

日本式mangaを書こうとして「日本漫画のコマ割りや効果線などの手法を、意味も考えずに表面だけなぞって変な事になってる」ケースはよく見るのですが、今まで見てきた中でもこりゃスゲェという例をご紹介します。


あんまり新人作家の仕事を腐すような事はしたくないんですが、この気持ち悪さを一人で抱え込むのはツラ過ぎる!このリンク先のプレビューを見てッ!


ヤングアダルトFT小説のコミカライズ(インディだけど一応商業作品)なんですが…アクションシーンでもなきゃ、登場人物が心理的に動揺しているシーンでもなきゃ、印象付けしたい意味のあるシーンでもない、 ただの日常描写なのに、全て変形ゴマ!四角いコマが一個もないどころか、縦か横のどちらかが平行になってるコマすらほとんどない!!!

(画像検索でチェックしたところ、以降のページもずっとこんな調子らしい)


こういうの、子供の頃から漫画慣れした日本人が見ると不協和音を聞かされたみたいな物凄い不安感に襲われるけど、非日本人の若い子は違和感を覚えないのかな。


これから先、海外の若手manga系作家にも日本型コマ割りルール等が共有されるようになるのか、海外は海外で独自進化をとげた漫画文法が確立されるのか…。

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