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  • 執筆者の写真vicisono

Madeleine RoscaのHollow Fieldsシリーズ

※この投稿は2016-1-14に旧サイトの日記ページにあげていた記事を再編集したものです。


2015年10月頃からKADOKAWAグループの電子書籍ストアBOOK☆WALKERでSeven Seas Entertainmentのオリジナル英語mangaの配信が始まりました。


日本からも購入しやすくなったし(英語だけど)、最新4巻も近日発売とタイムリーなので、以前から紹介したかったオーストラリアの漫画家マドレーヌ・ロスカの第一回国際漫画賞奨励賞受賞作『ホロゥ・フィールズ Hollow Fields』と関連作品のレビューを。


(ちなみに、もともとはウェブコミックとして始まり、SSEのスカウトで商業ベースに乗った作品です。)



 

Hollow Fieldsあらすじ


ルーシー・スノウはごくごく普通な9歳と半年の女の子。


全寮制お嬢様学校に入学するためにNullsvilleの町にやってきたルーシーは、手違いから全寮制マッドサイエンティスト養成学校Hollow Fieldsに迷い込んでしまう。


全学費・生活費免除、寮は豪華な個室…という条件につられて入学誓約書にサインしてしまうルーシーだが、この学校にはおそろしいルールがあった。


Miss Ricketts " Good morning, my little Doctor Frankenstein!" 異種間生体移植学担当講師のミス・リケッツ

全学生には毎週金曜日に課題提出が義務付けられており、最下位の学生にはdetentionが言い渡される。

detention(放課後の居残り)くらい、どうってことないわ…と軽く考えていたルーシーだったが、この学校のdetentionとは居残り補習という意味ではなく「拘留; 拘置; 拘禁」の事だった!


成績最下位の生徒は学園の敷地外れにある古い風車小屋に送られ、二度と戻って来ない…いったいどんなおぞましい目にあっているのか。


凡才のルーシーが授業についていけるはずもなく、学園からの脱走も失敗。

しかし偶然夜の図書館で出会ったしゃべる箱、「ドクター・ブレイク」の力を借りて、どうにか課題をこなし学園生活を切り抜けていく。


その一方で、学校長ミス・ウィーバーをトップとする講師陣が80年の永きにわたって続けてきた研究が完成に近付き……



というのがメインプロット


 

マッドサイエンティストあるあるネタ


ロスカの基本的作風は、珍奇な世界観そのものを楽しませる事をメインにしており、その分主人公の人物造形やプロットはシンプルに抑えられています。


本作もスチームパンクな世界観のファンタジー学園ものの楽しさと、豊富にちりばめられた「マッドサイエンティストあるある」「悪の組織あるある」ネタが見もの。


Miss Weaver 学校長にしてキラー・ロボット工学担当教諭のミス・ウィーバー。 蒸気機関の医療分野への応用技術を用いて全身義体化済み。 他の教諭陣も全員、長期の研究生活の為に何らかの技術で アンチエイジングしている筋金入りのマッドなみなさん。

「あなた達は自らが偉大な天才科学者となる為に学習しているのです、ヴィランのマヌケなサイドキックになる為ではありません」

…という教育理念に基づき、学習カリキュラムには科学技術だけでなく世界征服用の演習も含まれます。


Miss Scurt 「マッドサイエンティストたるもの、効率よくライフラインを遮断して 都市を制圧する方法を知っておかなければなりません!」 …とミニチュアを使用した市街戦演習。

解剖学にたずさわる者には必須の伝統芸(?)「死体盗掘実習」も当然あります。


Mr Croach

OELmangaですが、同種の日本のオタク系作品より西洋児童文学的な雰囲気。子供の頃に見た悪夢のような味わいというか。



全3巻で一応ストーリーに一区切りはつけているものの、一番エグい目にあった子供たちの救済がされないまま終わっているのでちょっとモヤモヤしていたのですが、今年2016年に続編である4巻目が発売予定とアナウンスされています。


 

姉妹作品The Clockwork Sky


初期作品であるHollow Fieldsは作画やコマ割の未熟さが目立ちますが、その後イギリスの出版社Tor Booksから刊行された同一世界設定作品The Clockwork Skyからは背景作画に3DモデリングソフトのSketchUpを導入し、作画面でのクオリティが大幅に上がっています。



1895年、産業革命期のロンドン。エラスムス・クローチ博士が導入した蒸気機関で動くオートマトン技術によって大英帝国は富を積み上げていた。

しかし一方ではロボットに職を奪われた労働者たちが極貧にあえぎ、街では日々暴動が絶えず、その対処の為にスコットランドヤードにはロボット警官たちが配備されていた。


クローチの姪であるサリーは街頭レースに明け暮れるお転婆娘であり、彼女の護衛として少年ロボット警官スカイが派遣されるのだが、彼等はアクシデントからクローチのオートマトン技術の闇の側面に巻き込まれる事になる……。



The Clockwork Skyの設定はフリッツ・ラングの古典映画Metropolisのストレートなオマージュですが、メインキャラである少年ロボット警官Skyの造詣に鉄腕アトムの影響が感じられ、本家Metropolisと共に2001年のりん&大友による手塚原作アニメ映画『メトロポリス』の方の影響も強いかも?



The Clockwork Skyに登場する科学者エラスムス・クローチはHollow Fieldsの講師のひとりアーチボルト・クローチJr.と血縁関係があるようなので、恐らくは同一世界設定による前日譚にあたると思われます。


作画面の充実や親しみやすいキャラクターという点で、邦訳を出すならこっちのほうがいいかなと。

(外務省の国際漫画賞って、国内向けには全くと言っていいほど知名度がないし受賞作が翻訳出版される訳でもないしで何の為にあるんだかわかんない賞なんだけど、各作家たちにとっては自国でのプロモーションなりの役にたってるんですかね??)

 

追記:その後のシリーズ展開


その後のHollow Fieldsシリーズですが、2016年に約7年ぶりの続編 Hollow Fields and the Perfect Cog が刊行。


番外編的なスペシャル版かと思いきや、これまでの物語で未解決だった犠牲者の救済問題を中心に据えた展開の上、クロードの父親(トボけた性格の長髪美形だけど、この人も世界制服をたくらむマッドサイエンティストなんだろうな) が重要キャラとしてストーリーに関与したり、別のマッドサイエンティスト養成学校がライバルとして登場したりと、正統続編として世界観を広げてきました。



更に2017年から、オリジナル版をミラー印刷で左→右進行に直し、全ページフルカラー化、カバーを別のアーティストに描かせるという、 mangaスタイルから標準的なアメコミスタイルに直したHollow Fields (Color Edition)が刊行開始。



Hollow Fields and the Perfect Cogは今までどおりの白黒、右→進行スタイルでしたが、今後の新作はどうなるのか…?

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