このページにはビジュアルノヴェル『うみねこのなく頃に』『うみねこのなく頃に散』のネタバレが記載されています
2012年11月29日 (初稿)
2013年09月23日 (改稿)
2019年09月18日 (サイト移転)
85年、86年、87年
ヤスの当主継承と戦人の1986年帰還が揃って大事件になった。
(ただし、バトラの帰還が1年ズレたとしても、何らかの小規模な不可能事件は起きた)
85年、86年、87年の条件の違いはなんだろう。
1987年にバトラが帰還しても、色々な要素が「後の祭り」であるのは分かる。
が、85年と86年の条件の違いはなんだろう。
一番分かりやすいのは「ジョージのプロポーズ」だが、不可解なことにヤスはプロポーズ予告を受けて断るどころか、わざわざ「カノン-ジェシカ恋愛幻想」を捏造し、自分から事態をややこしくしている。
「恋の三すくみ」は否応のない感情の動きの結果ではなく、ヤスが意図的に作り出した状況と言っていい。
問題はむしろ「幻想の有効無効」ではないだろうか。
85年はまだ各種の幻想が存続しており、87年には幻想が完全に剥ぎ取られむき出しの現実だけがある。
86年には一寸先に幻想の完全崩壊が迫っている。
幻想と現実が同居可能な最期の日々が86年の2日間といえる。
「自分がマリアの魔法を否定したのが事件の遠因」という縁寿の認識は、おそらく正しい。
(註)「さくたろう殺害事件」はエンジェとの絶交後の「晩秋(11~12月)」。可能性があるのは84年か85年の晩秋だが…
EP7によると、85年10月の親族会議時点でエンジェ(5歳)はマリアージュ・ソルシエールを除名済。84年晩秋(エンジェ4歳)以前に絶交し、以後一年以上絶交状態が続いたとすると、エンジェも振り返って「仲のよいおねぇちゃん」とは思わないだろう。
さくたろう殺害は85年11~12月の可能性が高い。
わたしは、だあれ
※85年時点でバトラが帰還した場合の選択肢は
金蔵の死と入れ違いのように(註)「金蔵の生まれ変わりのバトラ」が再び右代宮を名乗って島に帰還すれば、ヤスは「ベアトリーチェの魂のヨリシロとして作成された金蔵の家具」の運命に従うつもりだった。
『何らかの小規模な不可能事件』を起こして謎かけし、ヤスの心のホワイダニットを問うつもりではいたが、碑文の謎に挑ませる必要はなかった。
この時点ならばまだ「約束」を思い出すか否かによって、「あくまで島に閉じこめようとする運命」と、「外の世界に連れ出してくれる運命」の象徴という意味も持ちえたのかもしれない。
(註)「初代金蔵」は「初代ベアトリーチェ」を新島に残して一旦去り、約一年後に迎えに来ている。
「初代金蔵」が世を去った約一年後に若い姿で蘇った「二代目金蔵」が島に帰還して「三代目ベアトリーチェ」を迎えに来れば、ヤスの主観では「疑う余地のない逃れ得ぬ『運命』」に思えるだろう。
※87年時点では既に以下の2つから選択済み。もはやバトラの出る幕はない。
ジョージとの恋愛はシャノンの肉体上の秘密を隠した上で成り立っていたもの。
ジェシカとの恋愛にいたっては完全なる幻想で実体のないもの。
よって、どちらを選んだにせよ、この2人との『現実』における恋の成就はありえない。
(どちらにせよインセストタブーの問題があるのだし)
黄金郷も既に失った状態で、ヤスは否応なく無情な現実に放り出されて孤独に生きる以外にない。
※ 86年時点にバトラが帰還した場合
碑文の暗号 = バトラは金蔵の生まれ変わりか否かの判定
金蔵の三択 = バトラはヤスの王子様か否かの判定
殺人ミステリ = バトラはヤスの正体を暴いて魔法を理解するか否かの判定
の謎かけが行われ、バトラが「如何なる自己を選択するか」で、それに対応するヤスのアイデンティティと黄金郷の帰趨が決定される。
全ての謎かけを包括した問いが「わたしは、だあれ」となる。
右代宮戦人の諸相
バトラには「魔術師」「王子」「探偵」の三つの相があるが、この各相は連鎖密室のように他の相とねじれた繋がり方をしているので、非常にややこしい事になっている。
バトラが碑文を解けば、金蔵とベアトリーチェが蘇り、ヤスはバトラの家具となりシャノカノは淘汰される。
バトラがミステリを解けば、金蔵の死が確定し、ヤスの正体が暴かれてベアト・シャノン・カノンも消滅する。
バトラが両方失敗すれば、その時点でカップルとして生き残っていた人格がヤスの主人格に認定され、その後肉体が四散し死亡する事で身体事情不問でヤスにとっての真実となる(ジョージ・シャノン・ジェシカ・カノンの4名が第九の晩までそろって生き延びる可能性の有るシナリオは用意していなかったのでは)。
バトラ以外の人間が碑文の謎を解く可能性は「リスク」。
呪われた86年
時間さえ、与えられれば。
→87年までバトラが帰還せず、黄金郷を失って現実を受け入れる
→孤独な人生を送る
あるいはむしろ逆で、悩む時間さえ与えられなかったなら。
→85年に帰還したバトラを金蔵の生まれ変わりと妄信する
→金蔵の妄想に取り込まれ、自分自身の存在意義を喪失し病んだ精神状態で生きる
先代当主より全てを受け継いだ儀式の時のように。……私もまた、奇跡という名の運命に身を委ねることを選びました。
→86年に帰還したバトラに謎かけして彼のアイデンティティを決定させ、それに応じて自分のアイデンティティを決める
誰かが、報われるかもしれない。
→人格のうちどれかひとつが生き残り、残りが破棄される
→殺人の罪を背負って生きるのは辛いので、結果が出た時点で自殺するつもりなのでは
あるいは全員が結ばれて、解放されるかもしれない。
→島爆破で全ての可能性が残される
→自分も当然死ぬ
さもなくば誰かがこの愚行を、止めてくれるかもしれない。
→バトラ以外の者が碑文の謎を解き、自分の背負った問題は解決されないまま
→EP7茶会の描写を見る限り、ヤスは殺人を犯さず生き残ったとしても心が死んだ状態
……「バトラが碑文の暗号を解き、実際の殺人を犯す前に不可能殺人ミステリを解いてヤスの事情と苦しみを理解し、愛を蘇らせる」という千兆分の一の奇跡を成し遂げない限り、どう転んでもヤスは心か体かのどちらかが死ぬのだが。
『散』を通した暗示から解釈する限り、どうやら現実のバトラは碑文の謎を解いたらしい。(参考:Rebirth of the Golden Sorcerer ~ある魔術師のものがたり)
そしてヤスは殺人を犯してはいないらしい。
6年前の約束を自力で思い出したかどうかは不明だが、バトラはヤスに何らかの愛情を持っているらしい(少なくとも嫌悪や憎悪は皆無であり、同情を寄せている)。
事件発生以前に黄金を発見し、ヤスの殺人ミステリには挑んでいないのか。
あるいは第一の晩のシナリオは使用人総動員の狂言で、それを見抜いた上で碑文の謎を解いたのか。
その後に起こった実際の惨劇は、バトラが黄金を発見した事が引き金になったのか?
とすると、現実にはEP5、6盤内に近い事が起こったのだろうか…?
6日時点でヤスの素性や殺人を犯そうと計画していた事などを承知しているのは、推理の結果ではなくヤスから告白された為に知識として持っているだけなのか。
なんにせよ、現実はあらゆる可能性を想定してシナリオを用意していたヤスの予想外の展開になったらしい。
そしてバトラは黄金郷の幻想を認めた上で、それをベアトリーチェの猫箱に封印して水底に沈めさせ、ヤスと共に「ミステリ」という新たな宇宙を生み出す関係を選んだと。
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